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横浜地方裁判所 昭和38年(タ)16号 判決 1963年4月12日

原告 野村吉衛

右訴訟代理人弁護士 田口正英

禁治産者訴外人 野村ヒデ

右野村ヒデの後見監督人 被告 中島正太郎

主文

原告と被告の被後見人野村ヒデとを離婚する。

訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「主文同旨。」の判決を求め、その請求の原因として、

「一 原告と訴外野村ヒデ(旧姓甘粕)とは大正一五年七月一八日法律上の婚姻をした。

二 しかるに、右両名婚姻同棲後約一年余を経過した頃から訴外ヒデは精神分裂病の症状を呈しそれが次第に重篤となつたので医師の診断、治療を受けたが益々悪化の一途を辿り病状は昂進する一方でついに治ゆの見込なきに至り約二〇年間自宅においてあるいは各地病院に入院して治療看護を受けたが、結局千葉県にある式場病院に入院し今日に至つている。

三 原告は肩書住所で飼料販売業を経営しているものであるが、その妻たる訴外ヒデが右の如き病状で家庭生活を営むことができないため十数年来家事ならびに営業上の補助者として訴外鈴木美代子(大正一三年一一月一六日生)を迎え内縁の夫婦として同棲をつづけてきたが、両名の間に昭和二九年三月二日女子が生れ衛美子と命名され原告は同年八月一一日同女認知の届出をし現在同女は九才で小学校に通つている。

原告はすでに六二才の老令に達し一家の将来のことを考えると妻訴外ヒデの扶養および療養は自己の生存中はもとよりその後も継続して責任をとることを条件として衛美子をして嫡出子の身分を取得せしめこの子の将来に光明を与えるため訴外ヒデと離婚して訴外美代子と正式に婚姻することがよいと切望している。

四 右の事実関係は民法第七百七十条第一項第四号に定める「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込がないとき。」および同項第五号に定める「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。」という裁判上の離婚原因に該当する。

五 よつて、原告は横浜家庭裁判所に、訴外ヒデに対する禁治産宣告の申立をして(同庁昭和三七年(家)第一三六四号事件)同年一〇月一八日その決定を得、次いで同女の後見監督人選任の申立をして(同庁同年(家)第三四七一号事件)昭和三八年二月六日同女の後見監督人として被告(同女の姉の夫)を選任する旨の決定を得、それぞれその旨を戸籍吏に届け出をした。

六 原告は従来長年月に亘り妻ヒデの扶養、療養、入院等の費用を負担しその誠意をつくし将来も訴外美代等と共同してこれらのことを継続して責任をとることをここに誓う。

七 以上のとおりであるから、原告は、同人と訴外ヒデとの離婚を求めるため、この請求をする。」

と陳述し、

立証として、≪省略≫

被告は、「原告請求どおり。」の判決を求め、「請求の原因事実はすべてこれを認める。」と答弁し、甲号各証の成立を認めた。

理由

一  いずれもその方式および趣旨により真正に成立した公文書と認める甲第一…号証≪省略≫を綜合すれば「請求の原因事実中、訴外ヒデの発病の時期を除く、その余の事実。」および「原告は、訴外ヒデとの法律上の婚姻前九年頃親戚の反対を押し切つて同訴外人との事実上の婚姻をし同棲したものであるが、その後一年位して同訴外人は精神異状的行状を呈したので爾来種々療養を重ねた結果正式の婚姻をすればかえつて好転するものと信じて法律上の婚姻をしたのであるが病状は悪化の一方を辿るのみであり、原告と訴外ヒデとの間には子女はない。」事実を認めることができ、この認定を妨げる証拠はない。

二  右認定の事実に徴すれば、訴外ヒデの精神病が長年月に亘る強度のものであつて回復の見込がないことが認められるが、原告が長年月に亘りヒデを形式的にも妻として看護してきて現在両者とも相当の老令に達していることからすれば、ただそれだけで本件離婚請求を認めるわけにはゆかずむしろこのまま夫婦として終生婚姻を継続することを相当と認められるが、原告と訴外ヒデとの間には子女がないことのほか前認定の諸般の事実(殊に、原告および訴外鈴木美代子が今後とも訴外ヒデの扶養、療養、看護に全力をつくす旨誓つていることと衛美子の将来の幸福)を参酌し彼此勘案すればあえて民法第七百七十条第二項に則り本請求を認容しないことは相当でないのみならず、前項認定の事実全体を通観すればこの事実は同条第一項第五号の「婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。」という裁判上の離婚原因(同原因は同条第二項の適用を排除している。)にも該当するから、結局、原告の本訴請求はこれを正当として認容せざるをえない。

三  よつて、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のとおり判決する

(裁判官 若尾元)

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